今回は最新のパッティング計測ガジェット「CAPTO(キャプト)」を体験しながら、パッティングストロークの真実について考えてみたので少し整理しておきたいと思います。
1.CAPTOとは?
イタリアのPrecision Golfが開発したパッティング解析ソフトです。
以前のブログでも紹介したように、こうしたセンサーとアプリーケーションを組み合わせたゴルフのテクノロジーはどんどん出て来ていますね。今後も増えていくでしょうし、正しく理解して使っていくことが大切だと思います。
このCAPTOはパターのシャフト部分に加速度センサーやジャイロセンサーを内蔵したデバイスを装着し、毎秒300フレームのデータをタブレットやPCなどにインストールしたアプリケーションで収集して表示します。
キャプトの詳しい案内はこちらから(エンジョイゴルフ&スポーツジャパンさんのブログへジャンプします)。
今回パッティングを可視化してみて個人的に気づきがったのは以下の2点です。
パッティングの等速とは等速にあらず
よくパッティングのストロークスピードについての議論があります。私も実際にレッスンでは「ヘッドを加速させるように打ちましょう」という話をしますが、このパッティングの際のクラブスピードは「感覚の話」と「実際の話」では少し異なります。
パッティング中のスピードについて説明するために参考にしたデータを見てみます。
まずテンポです。テンポはバックスイングのスピードと、ダウンスイングのスピードの比率によって導き出されます。
この画像が示している[Optimal]とは理想値を示しています。Captoで用いられる理想値は「振り子(Pendulum)運動」から算出されていますが、理想値は上から「バックスイングが0.67秒」「ダウンスイングが0.34秒」「時間が1.01秒」であることが示されています。このデータからバックスイングに対してダウンスイングにかかった時間は約半分、つまりダウンスイングはバックスイングの2倍の速度だったとなるのでRatio(比率)は2.00と算出されます。
そしてスイング開始からインパクトまでは1秒となるので、テンポを示すBPM(1分間でのビート)60となります(ビートに関しては歩くテンポに強く関係すると言われているのでさほど重要ではありません)。
ここから分かることは「バックスイングのスピードに対してダウンスイングのスピードは2倍である」ということです。
パッティングのアドバイスでストロークは「等速」でという言葉を耳にすると思いますが、これはあくまでも感覚表現であり、実際には「バックスイングの時間=ダウン+フォロースルーの時間」で振るというのが正しい解釈だという事がわかります。
そして、なぜ等速という言葉が使われるのか?というと、振り子運動は行きと帰りが同じリズムだからです。
ちなみによく聞かれる質問でテンポとリズムの違いは、「テンポ=スピード」で「リズム=規則性」です。
テンポはBPM(beats per minute)という単位で表現されますが、例えば1分間の中でメトロノームが60回動くのと、30回動くのでは60回動く方が針の動きが速くなるのが分かります。パッティングでもテンポが速いと言うことは振りが速いということになるのです。
一方でリズムが速いというのは規則性の話です。リズムが速いというのは相対的な早い遅いを意味しますから、例えば『リズムが早い』と言うのは、ある規則性(パターン)から外れて早くなったことを意味します。
話は戻りますが、では「パッティングは等速で」という表現は何を意味しているのでしょうか?
それはリズムの話だということが分かります。
パッティングのストロークを止めずに素振りを繰り返した場合、ヘッドが振り子のように動きます。その時右→左、左→右、右→左、左→右ではテンポ(スピード)もリズム(規則性)も一定です。
しかし実際のストロークは「アドレス→切り返し」「切り返し→フォロースルー」となるので、クラブヘッドが動く距離の比率は1:2となります。この1:2を同じリズムでというのが等速という表現に隠れた前提なのです。
・Direction added acceleration(ストローク方向に加えられた速度)
では次に、ストロークに加えられた加速度を見てみましょう。
①は切り返し、②はインパクトを示しています。
面白いのは、バックスイングでは後方に向かって加速をしていきますが、ちょうどスイングの開始と、切り返しとの中間を境にして切り返し方向に加速度が向きを変えながら上昇しているのが分かります。
これは『意識の切り返しポイント』を示しています。クラブには慣性が働いているため急には方向を変える事ができません。バックスイングで後方に動き出したクラブヘッドは、途中切り返しの意識が入った後も後方への動きを続けます。しかし切り返しに備えて徐々にそのスピードが弱まり、切り返し直前にそのスピードが0に近づき、そこから前方方向へ加速を強めていきます。要するに意識とクラブの動きには時差があるということです。この時差(ラグ)を正しく使えるかというのも、クラブを正しく操作する上で非常に重要です。
フォワードスイング側も同じで、インパクト時には加速度が減少しているのが分かります。これは意識はすでにストロークを止める動きに向かっていることを意味します。
実際のクラブスピードはインパクト直前でピークを迎えますが、進行方向へ加速させる意識はインパクトの前には終わっているという事です。
・Speed
以上を踏まえた上で最後に答え合わせとしてストローク中のクラブスピードを見てみましょう。
切り返し時点で速度が0になり、インパクトで速度のピークを迎えています。
これらのデータから分かることは、バックスイングもダウンスイングも「クラブの加速」と「加速させる意識」には時差があり、その時差を理解して活用することが重要である。ということが分かります。
またよく言われる「等速で振る」というアドバイスの真意は「リズムの話」であり、実際のクラブの速度は常に変化しつづけているということです。
アドバイスするコーチも、受け取る側の生徒さんも、この表現は気をつけておきたいポイントです。
等速というアドバイスを実践しようとした生徒さんは、例えばこんな感じの動きになってしまいます。
クラブの動きを正しく使えてないのが分かります。
これはコーチの表現が誤解を生むという悪い例ですが、私たちコーチは感覚表現を駆使して正しい動きへ導くことを常に気をつけなければいけません。
また実際にこの動きをどうやったら身につけられるか?という話は「先行動作」をどう作っていくかという技術論になっていくので、また別の機会に説明したいと思います。
2.)スイングの支点を理解する
次に支点です。
実はスイングでよく言われる支点(軸、中心、重心)は多数存在しています。
Swing Center of mass(スイング中の質量中心)
Swing Center of head path(クラブヘッド重心軌道で作られる面の中心)
Swing Center of shaft path(クラブシャフト軌道で作られる面の中心)
Swing axis of head path(クラブヘッド重心軌道で作られる面の軸)
Spine of Rotation(回転時の軸を背骨と譬える場合)
Center of pressure(足圧の中心)
などがよく使われる代表的な表現です。
よくスイングのアドバイスで「軸を動かすな」とか、「重心を動かすな」という表現がありますが、何の軸なのか?何の重心なのか?が分からないと無意味なアドバイスになってしまいます。
そしてCAPTOが優れているのは、この重心やプレーンを可視化できるところです。
このように描画できれば、コーチと生徒さんで認識がズレることはなくなります。
画像が示している、お腹にある緑色の点は「パットカーネル」というヘッド重心の軌道から導き出されたスイングの支点を示しています。
そしてクラブをうまく操作できないと、このように極端に低い位置にくるケースも見られます。
一般的にパッティングではパットカーネルは高い位置にある方がストロークが直線的になって良いと言われますが、これは使っているパターによっても最適なアークが変わるので一概には言えないところです。
そしてさらにシャフトカーネル(シャフトの支点)とシャフトプレーンを示すことも可能です。
(↑パットプレーンとシャフトプレーンが一致している例)
(↑パットプレーンとシャフトプレーンが不一致の例)
使っているパターにもよりますが、パット巧者は上の画像のようにパットプレーンとシャフトプレーンが一致しているケースが多いようです。
いかがでしたか?
今回はCAPTOという機械をつかって、パッティングの曖昧な部分を可視化しながら上達に役立つポイントを説明をしてみました。
理想のパッティングを一言で表現するのは難しいのですが、どのように加速させるのか?どのように軸を取るのか?という点が理解できるといいですね(^^)
そして今回気づきを得た2つのことに共通しているのは、「感覚」と「現実」の違いを認識するということに尽きます。
こうしたデバイスを使う本当の効果は正確なフィードバックを得られることです。
自分の感覚とのギャップを感じるツールとして使うのがポイントになるので、よく理解したコーチにオペレーションしてもらいながら上達に役立ててくださいね(^^)
GEN-TENでもこうしたデータを通じた上達体験の場をまた提供していきたいと思います。