私はここ数年、新しいコーチングの手法としてセンシングテクノロジー(感知器や計測器を使用してさまざまな情報を数値化する技術)を使ったコーチングを体験したり、データの解析方法についての勉強会やセミナー、さらにはバイオメカニクス(身体運動力学)のセミナーや勉強会にも出席して、自分なりにスイングの知識を深め、実際のレッスンでもデータやデバイスを使ってみたりもしました。
過去の記事:
PEAKセミナー データを使ったコーチングの真実→
センシングテクノロジーから考えるゴルフコーチング→
最先端のセンシングテクノロジーを体験!→
今後もこうした最先端のコーチングをGEN-TENでは定期的に開催していきたいと思っていますが、これを実施するにあたり自分への戒めとしても、また受講される皆さまへのアドバイスとしても、書き留めておきたいことがあったので今回記事として残しておきます。
スイングに正解はあるのか?
これはコーチだけでなく、全てのゴルファーの永遠のテーマですね。
これだけ機械が進化し、情報が豊富になって、ゴルファーやコーチ以外の研究者も関わるようになって、クラブもどんどんシンプルになっていれば、スイングの正解が分かってきたのでは?と思う方も多いと思いますよね。私も大いに期待するその1人です(笑)
しかし、様々な科学的なデータを見ていても、いま分かっている内容でお話できることは『スイングに正解はない』ということです。
もちろんプロゴルファーに共通する動作、上級者に見られる傾向、物理の法則から導き出したベンチマーク(指標的数値)は存在しています。
しかし、それらはプロに限定されているものか?あるいはツアーの勝者だけが獲得している特別な技術か?それが絶対的な成功要因となり得るか?というと、それは私の知る限りそれはなく、常に例外は存在します。
どういうことかというと、データというのは全く同じものがいくつも揃うということはありません。ただ似たようなデータが集まるだけです。
例えば、飛距離が出るプレイヤーはダウンスイングでの足裏にかかる圧力が強いという傾向があったとします。
傾向とはこうして最もデータが集まっている範囲を線で囲っただけです。そしてその多くは、こうした2軸(二次元)で評価されています。
確かに傾向としてそうなんですが、こうして見た場合、飛ぶ人でも足圧が弱い人もいる、プロでも必ずしも質量中心(重心)が左じゃない。という見方もできるわけです。さらにこのような単純な2軸の評価でそれがKey Factor(重要な要因)と言い切れるのか?という疑問も出て来ます。
ですからデータから導き出される推論というのは、どういう軸を設定し、どんな評価で測り、どこに線で囲うかという、その人の主観が必ず入っています。
さまざまな理論や上達法というのは、こうした物差しと線によって作られているのです。
ナントカ理論も、ナントカ打法も、物差しと線によって作られたものであり、唯一無二の正解はないという認識が大切です。
アマチュアゴルファーがプロのデータを参考にする必要はない
そして正解探しをしてしまう中で起こるのが「有名プロのデータと自分のスイングを比較して…」というものです。
たしかにトッププレイヤーに近づくことは上達を意味するように感じます。
しかし、前提や背景がまったく違うので、こうした情報を鵜呑みにしても仕方ありません。
例えば、まずアマチュアとプロでは目指すゴールがまったく違います。
プロは18ホール平均で3.5個以上のバーディをとらないとトップ10に入ることもできません。ほとんどのアマチュアであれば、よほどの競技でない限り80台、70台でプレーすればトップ10には入れるでしょう。バーディも要らないし、パーで十分という感じです。
そしてプレーする環境が全く違います。
プロは7300ヤードを超えるような長い距離でプレーをしますから飛距離がとても重要になります。ストロークゲインからも分かるように数学的分析でも飛距離というのはプロの世界では絶対的なアドバンテージになります。
またグリーンの硬さも違います。プロはコンパクションが14を超えるような非常に硬いグリーンでプレーをしています。ですから、落下角度やスピンの量が高い人でないとアドバンテージを得ることができません。
前提や背景が違うのに「まっすぐ遠くに飛ばすという目的は変わらない」ということだけで、情報を鵜呑みにしてしまうのは問題です。
もちろんその情報そのもに価値はあります。なんたって世界でトッププレイヤーから採った貴重な情報ですから。ですが「情報の価値」が「見合ったアドバイス」になるかと言えば、それは全く別物です。
例外的に言えるのは、プロを教えるコーチは「価値のある情報」=「見合ったアドバイス」となることが多いので、プロコーチと呼ばれる人に理論派が多いのはこの要因が大きいと思います。
逆にいうとこうした理論派のゴルフオタクのようなコーチは初心者を教えるのが苦手な傾向があるのも頷けます(^^;
もちろん世界のトッププレイヤーの動きのなかで、始めたばかりのビギナーゴルファーが参考にすべく部分も多々あります。しかしそれが出来なかったとしても、才能がないわけでも、努力が足りないわけでもなく、『ただそのアドバイスが合っていないだけ』ということを覚えておいてください。このあたりは100%コーチの責任にしちゃっていいと思います(笑)
私自身もそうですが、頂いた報酬に見合った価値をだそうと思った時、コーチは「その人に見合ったアドバイス」かあるいは「価値のある情報」か伝える内容を迷います。
これはどちらが正解という訳ではなく、サービスとしてどちらが適切かという思考や、テーチャー型かコーチ型かという教えるスタイルにも影響していると思います。
できれば常に見合ったアドバイスを提供するコーチでありたいと思うのですが…(^^;
データを使うのなら感覚に落とし込む
さて話はレッスンへの活用に戻りますが、ではこうしたセンシングのデバイスやデータによる情報は上達に結びつかないのかというと、その成否は使い方によるところが大きくなります。
まず一つ目に重要なのは目的です。
悪い例として、ただ闇雲に憧れのプレイヤーや、強いプレイヤーの指標を追いかけてしまうケースがあります。すでに述べていますが、これは多くの場合で意味がありません。
1つ目は頭ではなく感覚で身につけることです。
例えばバックスイングで腰と肩の回転の捻転差を増やしたいプレイヤーがいたとします。その人は腰が70度回転していることが計測で分かっていて、理想的な捻転差を得るために腰の回転を少なくするアドバイスを受けたとします。その人は「腰をまったく動かさない”感覚”」で動きました。すると腰の回転が45度になり、捻転差が生まれたために飛距離も伸びました。
数値で見ると45度の回転は適切に動けているように見えますが、その人にとっては微動だにしていないで止めているつもりですから、感覚とは目には見えない固有のものだということが分かります。
これから分かることはデータとは「状態」を表現しているだけで、動きは「感覚」で身につけます。
「その状態になった時の感覚をつかむためのツール」として活用するのがセンシングデバイスの使い方であり、計測と確認を繰り返し、数字を一致させて楽しむゲームにしてしまうのはあまりに勿体ないですよね。
2つ目はボールデータやスコアに注目することです。
どんなに理想的なスイング中の動作やテクニックを身につけたとしても、それが結果として飛距離や精度、究極的にはスコアに反映されなくては意味がありません。
いくらトッププレイヤーの体の動きに近づいても、弾道やスコアがアベレージゴルファーのままだったとしら、その努力は報われなかったことになります。
ゴルフにおいて大切なのは、体の動きではなく、ゲームを作ることです。
これは結局のところ「どんな練習をすれば良いか?」という問いになりますが、この辺りはコーチが導いてくれるのでお任せしましょう(^^)
まとめ
今回は私たちコーチへの戒めとしても書いた記事でしたがいかがでしたか?
今のまま進化が進めば、今は数百万円するような機械も、おそらく数年後にはスマホのアプリになると思います。そうすれば専門知識がない人も、誰もが気軽にこうした機械やデータを使うようになるでしょう。この記事はそんな数年後の未来に先駆けて書いてみたので、また数年後に見直してこっそり楽しみたいと思っています(笑)
・スイングに正解はない。正解っぽく言われているものは、データの集まりを、誰かの物差しで、誰かが囲っただけ。
・プロのデータを参考にしたり、プロのスイングを目指す必要はない。自分に見合ったアドバイスを選ぶべき。
・これからの上達は「感覚」がより重要になる。特に「自分の感覚」を大切にしましょう。
もちろん、私たちGEN-TENのコーチはコースレッスンの専門家ですから、いつでも机上ではなく現場主義です(笑)
ただ、常に新しいものや、良いものは取り入れ、可能な限り良いコーチングを提供したいと思っています。
みなさんとレッスン会場でお会いする時には、一緒に汗をながしながら、こんな知識にも触れながら簡単に上達できる夢を語って楽しみたいですね〜(^^)