メンバーシップにかかるコスト
ミシガンのプライベートコースのフルメンバーシップを持つ理想の人数は、18ホール当たり200人ぐらいとされています。クラブに活気があって、でもティタイムは確実に取れるのがこのぐらいの規模だそうです。同居する配偶者と子供もメンバーとして扱われますから、実質のメンバーは250−300人ぐらいでしょう。入会の審査基準は、現メンバー(複数)からの推薦、ボードメンバーとの面接、書類審査などコースによってさまざまです。メンバーの数が定員に達している場合、ウェイティングリストに載せられます。ゴルフ好きなビル・ゲイツが、オーガスタ・ナショナルに億単位の寄付を申し出たのに空きがなくてすぐに入れてもらえなかった、という噂は有名です。ミシガンでは脱会する人はメンバーシップを放棄するのが慣習なので、業者による会員権の売買はありません。記名式の法人会員を認めているコースがあり、その場合メンバーシップは会社名でキープし、赴任者が変わる時に数十ドルの名義変更料を払います。いっぽうでメンバーシップはあくまでも個人に帰属するものとして、法人会員を認めないコースもあります。
入会するときに払う額(イニシエーションフィ)は市場を見ながらコースが決めます。例えば一番ミシガンで有名なOakland Hills CCですと、2000年前後のバブル期には10万ドル(1100万円)を超えましたが、リーマンショック直後は3万ドル(330万円)まで下がりました。1年のうち7ヶ月しかコースは使えないので、このお値段を高いと見るか安いと見るか、いかがでしょう。年会費はどのコースもあまり差がなくて、8000ドル(88万円)ぐらいです。これに加えて毎月100−200ドル程度のミールリクワイアメントを課すコースが多くあります。これはレストランで毎月決められた金額を使うことを義務づけるもので、たとえば一切食事をしなくても毎月その金額が請求されるというものです。
これは日本のメンバーシップと大きく違うと思うのですが、メンバーはグリーンフィーがタダです。バッグを担いで歩いてプレイすれば、ラウンドに一切お金はかかりません。電動カートを借りればカートフィー(25−50ドル位)を払い、自分のカートを家から乗ってくればトレイルフィー(=カート道の使用料/10−20ドル位)を払います。キャディを雇えばキャディフィとチップがかかります。そして練習場を使うのもタダです。いくらボールを打っても料金はかかりません。メンバーが一切ラウンドしなくてもクラブ全体を維持できるだけの費用をメンバーの数で頭割りし、それを年会費として算出しているそうです。
気持ちの良いフルサービス
パブリックコースとプライベートコースの一番大きな違いは、受けられるサービスの質だと思います。私はパブリックとプライベート両方でアシスタントプロとして働いた経験があります。そして10年ほど家族メンバーとしてプライベートコースにも所属していました。ラウンドするつもりはないけれど一人でふらりと行って練習だけして帰って来ることがよくありました。
ある日いつものように練習場にいたら、顔なじみのスターターがやって来て、「◯◯さんと△△さん(親しいメンバー)がこれからティオフしますけど、一緒にSonyaサンもどうかとおっしゃっていますが」なんて気を利かせてラウンドのアレンジをしてくれたり、遅れて来てティタイムに間に合わなかったゲストをプレイしているホールへ連れて来てくれたり、グリルからサンドイッチとワイン(もちろんワイングラスも)を運んで来てくれたり、ワガママなお願いでもだいたいのことはやってくれます。よくやってくれたら、チップをはずみます。若い学生のバイトは毎年入れ替わることが多いのですが、チップをはずむと早く顔と名前を覚えてくれて、融通を利かせてくれるようになります。露骨にせずあくまでも爽やかに、その辺りの駆け引きはコツがありますが、これは万国共通だと思います。
ほとんどのアメリカのコースではPGAの資格を持つプロ数人が働いていて、ヘッドプロがゴルフ場を経営し、ジュニアキャンプやコンペなどゴルフ全般の取り回しをアシスタントプロが手伝います。プロたちはレッスンもします。リーグではプロが一緒に回ってくれました。コースマネージメント、アライメントの定め方、深いラフからの出し方など、状況に応じて細かく教えてくれたので、これはのちのゴルフ人生に本当に役に立ちました。ゲンテンでコーチをやろうと思ったきっかけも、このコースレッスンの経験からでした。
ある時ヘッドプロの部屋に寄って立ち話をしていたら、「カスタムフィッティングのイベントに参加しませんか?」と誘われましたことがありました。行くとカッチョいいツアーバンがドーンと横付けされていて、個室でゴージャスなランチが出て、ロゴ入りお土産が用意されていて、何やら少人数の特別な招待イベントでした。これが私にとって初めてのフィッティング体験でした。作ってもらったアイアンの打ちやすさに感動しました。たまたまその1ヶ月後にPGAの実技テストを受けることになっていました。プロのところへ戻って、「新しいクラブはすっごーく良いんだけれど飛距離が伸びちゃってキャリーとランが把握できてなくて…」とこぼしたら、普段使う練習場の反対側に連れて行ってくれました。スタッフ用の打席が5つ並んでいました。誰もいないので使いたい放題です。自分のボールを打って、落ちたところにカートで走り、レンジファインダーで飛距離を計測するという作業を番手ごとに延々とやりました。あの楽しい経験は今でも忘れません。プライベートコースの醍醐味は、このパーソナルな「おもてなし」にあると思います。
メンバーを飽きさせないクラブイベント
ミシガンのゴルフシーズンは4月〜10月の約7ヶ月間です。私の働いていたプライベートコースでも週1回の男女別9ホールのリーグがあり、シーズン終わりには上位者のマッチプレイが行われ、年間チャンピオンを決めます。7月の独立記念日周辺には花火大会とBBQ、ジュニアゴルフキャンプ、メンバー2人組で4サムと4ボールで競うメンバー/メンバー、メンバー1人とゲスト1人の2人組で競うメンバー/ゲスト、所属プロのドラコンやニアピンに勝負するビートザプロトーナメント、参加者全員でいっせいにティオフしてパー以下のスコアの人が次のホールに進んで行くサドンデス形式のホースレイシングなどなど、ガチ勝負からゆるいものまで実に様々なイベントが行われます。今までで一番圧巻だったのは、仮装の完成度を競うハロウィンカップでした。前日からカートを飾り付けて、当日はこれでゴルフできるのかなと思うようなコスチュームで登場します。ウェディングドレスで後ろに缶を引きずったJust Marriedカー、アフロヘアのカリスマDJスタイル、フランケンシュタインなど、ガイジンが仮装すると本当に迫力があるんです!
ゴルフ以外の収益は大事
クラブイベントに参加して勝つとポイントがもらえます。大抵1ポイント1ドルで、クラブやウェアなどコースで売られている商品の買い物に使うことができます。お釣りは出ず、シーズン内に使い切らなければならないので、ほとんどのメンバーは多めに買って足りない分をお金で払うことになります。クラブイベントの賞金をポイント制にすることで、実質にはコースからの出費なしで必ず現金がクラブに入って来るようなしくみを作っているというわけです。
冬の間コースは閉鎖されますが、レストランやバー、ジムなどコース以外の屋内施設は通年営業しています。4月のイースター、5月の母の日、11月のサンクスギビング、12月のハヌカやクリスマスは家族で集まってランチを取るのがポピュラーなので、コースのレストランも豊富なメニューを用意します。ゴージャスなバフェや美味しいコース料理を出すコースが多く、予約ですぐにいっぱいになります。結婚式やベイビーシャワー、誕生日パーティなども開かれます。魅力的な商品やサービスを提供することで、冬場でもラウンド以外の目的で訪れるメンバーやゲストを増やす努力をしています。
いかがでしたか?この原稿を書いていたらミシガンで毎日ゴルフしていたことを懐かしく思い出しました。今年も7、8月はミシガンに滞在します。古巣のプライベートコースにぜひ遊びに行こうと思います。アメリカからもブログを配信しますので、お楽しみに☆