1月26−29日にフロリダ州オーランドで行われた、PGA Merchandise Showに取材に行ってきました。そこで、デビッド・レッドベターの新しいティーチング理論、A Swing(エイ・スイング)のセッションを受講しました。
レッドベターは1952年生まれのイギリス人のPGAプロで、1980年代にニックファルド、ニックプライス、アーニーエルスなど多くの有名選手を教え、成功に導きました。
当時はアスレチックスイング(Athletic Swing)という理論を出していて、これは体重移動をしっかりする、いわゆる2軸スイングでした。ベンホーガンのモダンゴルフの次に有名な、ゴルフ教本のバイブルとして人気を博しました。腕の位置やフェースの向きなど、ここではここにあるべき、こっちを向くべき、というふうにコマ送りで体とクラブのポジションが決まっています。とても分かりやすい反面、プロ仲間に話をすると、「細かすぎる。メカニックすぎる。毎日何時間も練習するツアープロと違い、アマチュアゴルファーはスイングにブレが大きいし、筋力や柔軟性の関係で理想的には動けない。もっとスイング全体のダイナミックな動きを見て教えるべき」など、どちらかというとこの理論に否定的な意見が多く聞かれました。
私自身は、細かすぎる教本には利点があると思います。1つずつの点を覚えてつなげれば、全体のスイングが完成します。メカニックに正確に(なるべく)その場所を通るように練習すれば、自然に美しいスイングが身につきます。私がゴルフを始めた時、もしこの本を手にしていたら、きれいなスイングを体に覚えこませたあとで初めて球を打って、スイングの軌道上にたまたまボールがあって、それがたまたまクラブに当たってポンと遠くへ飛んで行った、という素晴らしいゴルフ初体験を踏むことができたかもしれません。
Hand-eye coordinationと言って、目で見たものを道具を使って操るという技は、運動神経に頼るところが大きく、ゴルフの上達のスピードにももちろん影響を及ぼします。しかし、それはおそらくコンスタントに70台、80台前半を出すぐらいのレベルの話であって、いつも同じスイングができさえすれば、90台のスコアまでは出せると思います。とくに始めたばかりの頃は、「感覚」などという曖昧なものに頼って球を操ろうとするからこそ上手に当たらないわけで、当てることばかりに気が行くから基本のスイングは無視されてしまうのです。この小うるさいほどにメカニックな理論は、頼りない「感覚」の要素を補ってくれるはずです。今回のA Swingの教本も、かなり細かい説明が書かれています。A3版ぐらいのハードカバーで191ページ。まるで図鑑です(^^)。
A Swingと従来のアスレチックスイング、両方とも同じAから始まりますが、A SwingはAlternative Swingの略だそうです。「もう1つ、別の」という意味を持ちます。レッドベターは、「まったく新しいスイング理論だというわけではない、従来のスイング理論の進化版なのだ」と言っています。A Swingを取り入れて一番活躍しているツアー選手は、リディア・コーです。韓国生まれの18才、6才の時にニュージーランドに移住しました。2013年10月にプロに転向、翌月にそれまでのニュージーランド人コーチを解任し、レッドベターアカデミーのショーン・ホーガンに師事しました。そして2015年2月、史上最年少で世界ランキング1位の女王となりました。
A Swingは昨年5月に本が出版され、正式発表されました。今回のPGAショーで初めて、プロ向けのプレゼンテーションが行われました。これを皮切りに、今月半ばには日本のゴルフショーでもプロモーションが行われるそうで、世界行脚が始まります。最初にこのクラスを受けられて、とてもラッキーでした。
さあ、A Swingがどんな理論なのか具体的にご紹介します。
キーワードは、次の3つです。
1)セットアップ(グリップ、ポスチャー)
2)ピボットターン
3)シンクロナイゼーション
1)グリップ
左手は上からナックル3つが見えるようストロングに握ります。親指と人差し指の付け根の作るVの字が左肩をさすようにします。右手は真上からシャフトをかぶせるように左手の上に乗せ、Vの字が左頬を指すように握ります。A Swingでは右手はだいぶウィークグリップで握ります。このグリップがすごく重要です。こう握らないと、このユニークなスイングは実現しません。
ポスチャー
レッドベターはこんな説明をしていました。スタンスを作って直立した状態で、体の正面にシャフトが立つようにクラブを持って、上体を徐々に前傾させて行くと、シャフトが重力に負けて向こうへ倒れようとするポイントがある、そこが前傾の角度です。両足の拇指球の上に重心がかかります。
2)ピボットターン
ピボットとは、回転軸の中心を意味します。ここでは、上半身のコア(中心)、おへそ辺り1点を中心に上半身をひねることを言います。小学校時代に習ったバスケットボールのピボットフット、あのピボットです。
最初に前傾をして骨盤を斜めに傾けて構えているのだから、腰は地面と平行には回らず、斜めに回って行きます。骨盤は右腰を上げて左腰を下げ、切り返しでは左腰が上がって右腰が下がるような、上下に交互に「切る」ようなイメージで下半身をひねります。
3)シンクロナイゼーション
腕と体の動きがバラバラではなく同期していることをいいます。A Swingでは手の動きが極力省かれていて、スイングのほとんどを体の「捻転」(coiling)で行います。
従来のスイングでは、上体の捻転とともにフェースターンをします。スクエアに構えたポジションからテイクバックして、両手が体の横に来た時は、フェースも左手の甲も正面を向き(つまり90度ターンし)、シャフトは飛球線と平行、さらに上体をひねって、コッキングしながらシャフトは右肩の後方、斜め上のほうへ立って行きます。
A Swingでは、左手がストロンググリップなために手首にカッピング(手の甲が反るように手首に角度を持たせること)があります。上体を捻転しテイクバック、両脇は締めたまま、左手のカッピングを保ったまま両手はとても体に近い所を通り、フェースはずっと球を見続け、シャットに引いていきます。両手は上体のひねりにつられて動きますが、フェースターンはしません。
コッキング時、ヘッドは体の外側へ行き、シャフトは斜め右前方に立ちます。その形を作ったら、あとは手は動かさず上体を捻転。両手が体の横に来たときのシャフトの角度は、前傾する背骨と平行、もしくは地面と垂直です。トップの位置で、ヘッドは飛球線よりも内側へ入ります。テイクバックはとてもコンパクトで、今までの半分ぐらいしか手とクラブを上げないイメージです。
ダウンでシャフトは斜めに寝て返って来ます。スイングを後方(ダウンザライン)から見ると、テイクバック時のシャフトの角度とダウンスイング時のシャフトの角度は、Vの字を描きます。ジムフューリックのスイングをイメージすると分かりやすいと思います。彼は究極のA Swingerだそうです。トップからインパクトは、今までのスイングと同じ感覚だと思います。
レッドベターは、「シャフトのVの字は自然に作られます。野球のバットを振る時に、引く時はバットの先は立っているのに、振り出すとバットの先が寝て返ってくるのと同じ現象です。どこへクラブを上げようが、正しい軌道で戻って来さえすれば、いい球が出るのです」と言っています。
ふむふむ。そのとおりですけど、メカニックなあなたが、ずいぶん感覚的なことおっしゃるではないですか。さらに彼は続けます。
「『クラブは行った軌道を返って来ないといけない』なんて誰が言ったんだ?」
「へ?20年前のあなたでしょ」
って言いたかったけど、黙ってました(笑)。イギリス人流のウィットだったのかもしれませんね。
フォローでもフェースターンがないので、フリップオーバー(右手が左手を追い越し、右の手のひらが地面を向くようにクラブをさばくこと)をしません。右手が左手の下に入り、フェースは空を向きながらクラブが上がって行きます。スクーピング、すくい打ちをやったあとのような形です。もちろんインパクトの前から左手首が折れてすくい打ちをやるのではなく、あくまでもロフトを立てながらインパクトして、フォローでフェースターンをしなければフェースは自然と空を向きます。シャットで引いて、オープンで終わるイメージです。
いかがですか?これが一連の動きです。
あまりにも今までやってきたことと違うので、これでいいの?当たるの?と思われるかもしれません。私も説明を聞きながら、「えーそれやっちゃうんだー」「うー」「まじー」などと日本語でつぶやきまくっておりました。実際に球を打ってみたところ、最初はテイクバックで両手を内側に引くのをためらい、シャンクが出ました。5球目ぐらいから慣れて来て、手を内側へ、シャフトをすごく立てる、の2点を意識するようにしたら、いいショットが出始めました。フロリダから帰って来て練習場でも試しましたが、だんだんと小さいバックスイングが心地良くなってきました。楽です。悪くありません。
A Swingの本には、この理論がどんな人に有効かが書いてあります。
ビギナー、スライスを打つ人、どんなに右を向いても球が左に飛んで行く人、スイングが早すぎると言われ続けている人、ロングゲームに安定性がない人、特に女性で大きく力感のないスイングをする人、アイアンが上手に打てない人、技術に敏感で何か新しい理論を試してみたい人、上手になりたいけど練習する時間がない人…つまり、まあほとんど全ての人を網羅していますね。
A Swingには、主に3つの利点があります。
1)テイクバックが小さい
フェースターンをしないため、手の向きを変える動作がありません。本によると、従来のスイングに比べて手の動きが20%小さくなるけれど、クラブヘッドの軌道が15%大きくなり、これまでより30%少ない力で上体をひねることができるようになり、下半身の揺れは15%減る、という実験結果が出ているそうです。確かに、バックスイングがコンパクトですと特に下半身のバランスが保たれやすくなり、再現性が増し、その結果ショットのブレが少なくなるということは、言えると思います。
2)人間の体の動きに逆らわず、シンプルでナチュラル
フェースターンがないので、今までのようにテイクバックの途中ではフェースの向きはここ、シャフトの向きはここ、というふうに手やクラブのポジションを気にする必要がありません。ピボットターンが動きのメインですから、大きな筋肉を使ってスイングすることができます。
A Swingのレッスンを初めて受けたゴルフダイジェストの記者は、「これまでやってはいけないと言われて来たことを、全部やってる気がした」と言っていました。レッドベターはこれに対し、「やってはいけないことこそが、人が思わずやってしまう自然な動きなのです。自然な動きからこそ、もっとも効率的に再現性と安定性が得られるでしょう」と言っています。
3)利き手を存分に使える
フォローでフェースが上を向きますが、これは下手投げでボールを投げるときのフリップ、スナップを利かせる感覚と同じだと、レッドベターが説明していました。ボールを投げる時、手から離れる瞬間は手のひらがターゲットを向いているけれど、投げ終わったあとでスナップを利かせることでボールが加速します。確かに投げ終わった後、手のひらは閉じて、手の甲側は伸び切った形をしています。
昔からゴルフは利き手と反対のクラブを使った方がいいとか、利き手は使わないでスイングするべき、などと言われて来ました。私は、この「右手/左手論争」は、「ペプシ/コーラ論争」と同じではないかと思っています。つまり、ペプシが大好きな人がずーっとペプシを飲み続けていて、でもコーラしか置いていないお店で、仕方がないのでコーラを飲んでみたら「おや、コーラも悪くないな」と思ってしまうあの感覚です。同様に、左手左手、と思っていても、ある日練習していたら、「おや、やっぱり右手で振るのかも」と思い直してしまったりするものです。絶対どちらかの手をより意識すべきというのはなくて、右手で振ったり左手で振ったり、あるいは両手一体で振ったり、様々な感覚を試してみて、その日うまく行くほうを採用するのでいいと思います。
レッドベターは、A Swingの本の冒頭でこう言っています。
「すでに安定して正確なショットを打てる人は、スイングを変える必要は全くない。ただ、今までのスイング理論で苦労してきた人たちには、A Swingがもう1つ別のオプションとなるだろう。なぜなら、この理論は科学的な原理に則っていて、ずっと簡単に安定したショットを打つ方法なのだから」。
このA Swingに限らないことですが、どんな理論も正しいか間違っているかというのはなくて、どれも1つの方法です。こうじゃなくちゃいけない、という「絶対」はありません。理論を読んでみて、納得したら試してみて、上手く行きそうならもう少し掘り下げてみればいいし、ダメだったら他のを試す、あるいは複数の理論から良さそうな所を引っ張って来て自分のスイングに取り入れてみる、などいろいろ研究してみるのがいいと思います。これをしたらこんな球が出た、あれは上手く行かない…試したことは覚えておいてくださいね。練習と実践で引き出しを増やして行くことで、ゴルフはぐんと楽しくなると思います。
勉強して来た内容は、3月の研修でゲンテンのコーチ達に詳しく伝える予定です。
A Swing、ぜひ試してみてください!
次回のHello! Sachikoは、PGA Merchandise Showについてレポートします。
お楽しみに〜。