後編では、世界最高の芝生クオリティを誇るプライベートコース、オーガスタナショナルゴルフクラブをご紹介します。
オーガスタの街は、アメリカのジョージア州にあります。古く18〜19世紀には、このエリアでは藍(インディゴ)のプランテーションが行われていました。1857年に、土地はベルギーのバークマン男爵の手に渡りました。バークマン氏は農学者であり、その息子プロスパーは園芸家でした。世界中から植物や樹木を輸入し、植物園を経営しました。1910年、プロスパーの死をきっかけに閉園、その後20年間、手つかずのままで放っておかれていたそうです。1930年、ボビージョーンズがオーガスタの地を訪れました。彼は「球聖」と呼ばれた天才アマチュアゴルファーです。地元ジョージア州アトランタ出身で、200kmほど東にオーガスタの町があります。この年、彼は28歳で、全英アマ、全英オープン、全米アマ、全米オープンの、アマチュアが出場できる4大大会すべてを制して年間グランドスラムを達成し、競技ゴルフから引退しました。
ボビーはこの植物園だった理想の土地を購入し、アリスターマッケンジーにゴルフコースの設計を依頼しました。オーガスタナショナルGCは1932年にオープンしました。1934年からAugusta National Invitation Tournamentが開催され、その大会は1939年にマスターズトーナメントという名前に変更されました。毎年4月第2週目に行われる、米国PGAツアー4大大会の1つです。
このトーナメントに照準を合わせて、最高のコースコンディションが作られます。オーガスタは寒地型と暖地型の中間に位置しています。フェアウェイ、グリーンともに1980年までバミューダグラスが使われていましたが、1981年にグリーンがベントグラスに変わりました。バミューダグラスの時代のグリーンのスティンプは8−9.5でした。現在は改良ベントグラスの一種、ペンクロスA-2が使われており、スティンプは12-14辺りであるようですが、コース側は芝について一切公式発表をしないため、憶測の域を出ません。
5月半ばから10月半ばまでの5ヶ月間、暑いのでコースは完全に閉じられ、メンテナンスが行われます。高い湿気と気温で芝生がダメージを受けないよう、グリーンの上にはテントが張られ、扇風機が設置されます。
10月にオープンすると、フェアウェイのバミューダグラスの上にライグラスの種を蒔き始め、マスターズが行われる4月頃には、フェアウェイは完全にライグラスのみに生え変わります。前編の復習をしますと、バミューダグラスは暖地型の芝生で、ライグラスは寒地型の芝生です。下は実際のオーガスタナショナルのフェアウェイですが、このきめの細かさ、絨毯のようですね。
トーナメント60日前からは、米国各地から約1000人のスーパーインテンダント(グリーンキーパー)がボランティアとして集まり、マスターズに向けてコース整備を手伝います。4月初旬のマスターズの2週間前から再びコースを閉鎖し、トーナメントに備えます。トーナメントのあとは約1ヶ月プレイが可能で、再び5月半ばから閉じられます。つまりメンバーとゲストがコースでプレイできるのは、10月半ばから3月半ばと、4月半ばから5月半ばまでの半年余りというわけです。
■オープン ■トーナメント ■閉鎖
グリーンの管理には、ハイテク技術が使われています。全ホールのグリーンの下に、水と空気の通るパイプ、圧力弁、ファンと電気モーターが埋まっています。2005年にエーメンコーナーの工事が終わり、システム設置が完了しました。
大雨が降ると、センサーでモーターが作動し、パイプを真空状態にし、雨水を素早く下水パイプに逃します。たとえ嵐が来ても、グリーンの速さは変わらないそうです。逆に気温が上がって乾燥してくると、パイプに水を送り込み、芝生や土に水を行き渡らせます。エアレーションはせず、その代わりにパイプから直接根に酸素を送り込みます。
この最新鋭のシステムはSub Air Systemといいます。オーガスタのスタッフが考案して、独立して会社を設立しました。今ではこのシステムが、ペブルビーチ、TPCソーグラス、パインハーストNo.2にも導入されています。
(SubAir Systems, LLC | http://subairsystems.com)
20年ほど前に、知り合いがオーガスタナショナルでラウンドしました。大会前だったため、芝生を傷つけないように、フェアウェイでは球の落ちたところに人工芝のシートを敷いて、そこから打つように指示されたそうです。300名ほどのメンバーがいますが、地元ジョージア州に住むメンバーは、わずか2名だというウワサを聞いたことがあります。実際にゴルフをするメンバーは、300人中何人だろうかと思います。ふつうはゴルフ好きな人が、恵まれた環境で心ゆくまでゴルフを楽しみたいからプライベートのメンバーになるものですが、オーガスタナショナルの誇り高きパトロンの方たちにとっては、自分のゴルフは二の次で、いわば世界文化遺産を守るかのような気持ちで、コースとマスターズを愛し、支援しているのだと思います。
米国PGAメンバーになると、全米のPGAツアーの試合を無料で見に行くことができます。マスターズもフリーアクセスです。マスターズのチケットは、パトロン、支援している企業、地元の住民などに配布・販売され、抽選もあるようですが一般の入手が困難です。入り口付近でダフ屋から買うこともできますし、最近は旅行代理店がツアーを組んでいますが、チケットはとても高価です。大きな声では言えませんが、マスターズを見に行きたい!というのが、私がPGAメンバーになりたいと思ったモチベーションの半分ぐらいを占めていました。
1回だけですが本当に観戦に行きました。石川遼選手が初出場した2009年です。どこを見回しても大物選手ばかり、やはりあの大会は特別です。パー3コンテストで、ゲーリープレイヤーの池ポチャのあとのホールインワン(実際はホールインスリーですが)に歓声をあげたり、本戦ではエーメンコーナーや最終ホールのグリーン脇に椅子を置いて、日がな1日定点観戦をしたりしました。
実際に歩いてみると、TVで見るよりずっと起伏の大きいコースだということが分かります。レイアウトや景観はもちろんのこと、芝生の色やキメの細かさ、植物の美しさに心を奪われます。まるで庭園のようです。植物園時代から生育していた植物が多く残り、藤(ウィステリア)、アザレア(ツツジ)、ドッグウッド(ハナミズキ)、マグノリア(モクレン)などの花々が咲き乱れ、あちこちにとてもいい匂いが漂っています。
選手のいない朝のうちにコースを散歩しているだけで、とてもシアワセな気分になります。こんなに美しいコースは見たことがないと思いました。コースのどこにいても、何をしていても飽きることがなく、それはそれは貴重な体験をしました。うっとりとするようなコースコンディションには、まったく別次元の管理方法があったのですね。
「芝生について語りたい!前編&後編」、いかがでしたか?
次回からは、夏の修行中に感じた「日本とココが違うよ、ミシガンのゴルフ事情」をお送りしたいと思います。お楽しみに〜☆
そして、ゲンテンの大矢ディレクターが今年のマスターズ観戦に行きました。まだブログをご覧になってない方は、ぜひコチラをどうぞ!