PGAマネジメントプログラムで勉強した教科のうち、一番興味深いと思ったのは「芝生管理(Turfgrass Management)」でした。
前・後編に分けて、芝生のことを掘り下げてご紹介したいと思います☆
私はインストラクターの仕事と自身のゴルフ修行のため、毎年夏をアメリカ・ミシガン州で過ごします。ですから日本でのラウンドは、もっぱら冬の間のみです。日本のコースは白っぽいなあという印象がありました。しかし今年からゲンテンで働き始め、15年ぶりに日本で初夏を過ごしました。4月頃から芝生はどんどん白から薄緑に変わっていって、5月には深く美しい緑色になり、冬とは全く違う景色になりました。そう、ゴルフコースはこうでなくっちゃ!綺麗な緑色の芝生でラウンドするのは、とても気分がいいですね。
日本で寒くなると芝生が白くなるのは、枯れるからだとばかり思っていましたが、そうではなくて、光合成が止まって色が抜けるだけなのだそうです。気温が上がるとまた光合成が始まり、生き生きとした緑色に戻ります。
芝生はイネ科の多年草です。日本のゴルフコースでおなじみの高麗芝(コウライシバ)は、名前ゆえに大陸から伝わったものと思われがちですが、実は日本在来の和芝です。和芝には、高麗芝の他に野芝、姫高麗芝などがあり、いずれも生育適温は30℃前後で、日本の高温多湿な気候に適しています。
いっぽう、西洋芝には暖地型と寒地型の2種類があります。暖地型芝の代表はバミューダグラスです。和芝同様、30℃前後でよく育ちます。10℃を下回ると光合成が止まって白くなります。寒地型芝の代表はベントグラスで、ゴルフコースのグリーンによく使われます。そのほかにはブルーグラス、フェスキュー、ライグラスなどがあり、グリーン以外のティグランド、フェアウェイ、ラフに使われます。寒地型芝の適温は24℃、30℃を越えると光合成が止まって白くなります。下は−7℃まで耐えられます。
寒地型地域のミシガンでは、春先に融けた雪の下から見える芝生は、いきなり緑色です。真夏でも平均気温は25℃前後で快適なのですが、30℃を越える日が1週間以上続き、雨量や水やりが十分でないと、芝生は痛々しい姿になって本当に枯れてしまいます。下の写真はミシガンのパブリックコースで、真夏に撮影しました。日の良く当たる斜面が少し茶色に焼けてしまっています。気温が下がるとまた復活します。
アメリカ・カロライナ辺りの気候は、だいたい日本の関東・中部と同じぐらいだと思いますが、暖地型芝の上に寒地型芝の種を蒔いて(オーバーシード)、どの季節でも芝色が保たれるよう工夫します。GEN-TENのレッスン開催コースの1つ、埼玉県の武蔵松山GCでは、夏にバミューダグラスを採用していて、厳しい暑さの中でも高速グリーンが楽しめます。
また、芝草には「ほふく茎」と呼ばれる、這うように生える茎を持つ種類と、直立した茎を持つ種類があります。バミューダグラスとベントグラスはほふく茎で、フェスキューは直立茎です。
画像引用元:バロネスダイレクト様
http://www.baroness-direct.com/fs/baroness/c/0000000815/
暖地型のバミューダグラスと、寒地型のベントグラス。大きな違いは、葉の幅と茎の硬さにあります。バミューダグラスは葉の幅が広く、茎が硬いので、グリーンに芝目が強く出ます。ラフに転がった球が浮いているように見えて、普通に打ったら思いのほか重くて飛ばなかった、というようなことがあります。これは、網の目状に広がる太いほふく茎が、ヘッドにからみついたからです。
いっぽうベントグラスは、葉の幅が狭く柔らかいので、グリーンに芝目はほとんどありません。フェアウェイでは薄くてきれいなカツレツのようなターフが取れます。
ラフは葉が長く、水気をたっぷり含んでしんなりとしているので、球が沈みます。重いラフでは、高さと距離のコントロールがとても難しいです。繊細で根が浅いので、乾燥や暑さ、踏圧に弱く、より細かいメンテナンスが必要です。
このように、気候やラウンド数、メンテナンスの頻度などで、ゴルフコースに採用する芝生の種類は絞られますが、どんな芝でも土の質が大切です。砂が多く、きめが粗い土ですと、養分が地中にとどまらずに、水と一緒に流れていってしまいます。逆に粘土質の土ですと、きめが細かすぎて、ギュッと締まって根の間を酸素が通らなくなってしまいます。理想的には、砂、粘土、有機物を適度に含む肥沃な黒土(ローム)が最も適しています。
たいていゴルフコースでは、年に2回ほどエアレーションをします。直径1−2cm、長さ5-7cmほどの土の円柱を掘り起こし、芝生一面にボコボコと穴をあけます。ゴルファーにはしごく迷惑な作業なのですが、土と芝生の葉の間にできる有機物の層(サッチ)を適度に取り除いて、水、養分、酸素の通る道を作り直すために、やらなければならない作業でもあります。しかし、メンテの良い芝生ほどサッチの層は薄く、エアレーションの回数が少なくなります。ミシガンでも、バーティカルカットと呼ばれるミリ単位の幅の細かい切れ目を入れるだけで済ませるプライベートコースがいくつかあり、メンバー達にはとても喜ばれています。
よくよく考えれば、毎日3ミリまで刈り込まれ、足で踏みつけられ、鉄の棒であちこちえぐり取られるなんて、芝生にとってゴルファーは大いなるストレスです。そんな環境下でも芝を健康に保ち、プレイに見合う速さ、統一性、密度を兼ね備えたサーフェスを作ることが、ゴルフコースにとって最大のチャレンジであり、技術の見せどころなのでしょう。
アプレンティス時代に勤めたWabeek CCのジュニアキャンプで、コーチが子供達に最初に伝えたのは、“Respect the golfers. Respect the golf course.”でした。安全とマナーを含む、シンプルでいいフレーズだと思いました。ディボットに目土を入れる、ボールマークを直す、当たり前のことだけれど、後続・同伴プレイヤーを思いやり、ゴルフコースを思いやり、メンテナンスの人たちを思いやる。栄養たっぷりのまぶしい夏の芝生を見て、みんなが気持ちよくラウンドできるように心がけたいなと、あらためて思いました。
次回は、芝生にとってのストレスを出来る限り排除し、ハイテクを駆使して最高のコンディションを作ることに命をかける世界随一のゴルフコース、オーガスタナショナルGCをご紹介します。お楽しみに〜。