先日アメリカのPGAツアーで参考にされているSG(ストロークゲイン)指標というものを調べていました。
SG指標とはマーク•ブローディ氏(コロンビア大学MBAのファイナンス講師)が専門領域であるファイナンス理論を使った1打の重み(価値)を計る研究で、PGAツアーで活躍する選手やコーチも取り入れている指標です。
ゴルフのスコアは30センチのタップも、300Yのビッグドライブも、ベタピンの2ndショットも同じ1打として扱われますが、それらのショットがスコアに与えた影響度というのを数値化すれば、そのショットにどれくらいの価値(重み)があったかが分かるというものです。
私がこれに興味をもったのは、ゴルファーがスコアを伸ばすために「何から優先的に取り組めばいいのか?」「どんな練習に最も時間を割けば良いのか?」「コースマネジメントでは何が大切なのか?」というコーチングの優先順位を決めて、GEN-TENのレッスンに活かせないかな?と思ったことがきっかけです。
さっそく紹介しようとまとめてみましたが、まだ聞き慣れない分野である事や、定量化された膨大なデータを理解するために少し長くなってしまったので(汗)、数回に分けて書いてみたいと思います。
第1回はSG指標の概念を中心に、第2回はどのように自分の上達に役立てるかについて書いていきます。特に第2回はぜひ参考にしてもらいたい内容です。
なので数字や理屈っぽい話が苦手という方は次回(第2回)から読んでもらっても良いと思います(^^)
■SG指標とは
元になっているデータはゴルフメトリクスというシステムを使ってコース上にプロットされたアマチュアゴルファーのショットデータ、そしてショットリンクというPGAツアーがとっている1000万回以上の世界トップクラスのプレイヤーのショットデータです。
早速SG指標を理解するために、分かり易いパッティングを例にしてみます。
PGAツアーでは33フィート(約10m)の距離からの平均パット数は1.98パットというデータが得られています。もしこれを1打で入れたら平均に対して0.98打縮めたことになります。このパットで稼いだストローク=SGP(Strokes gained of putting=パターで稼いだ打数)=0.98となります。
同じ例で8フィート(約2.4m)は50%の確率で1パットで入る距離なので平均パット数は1.50パットとなり、これを1打で入れたらそのパットは0.5打縮める価値があった事になるのでSGP=0.50になります。
『稼いだ』と逆に失うパターンも出てきます。例えば3フィート(90cm)は96%の確率で1パットで入ります。3フィートからの平均パット数は1.04なので、もしこのショートパットを外して2打費やしてしまうとそのストロークは0.96打を失った事になるのでSGP=−0.96という数値になります。
SG指標=「平均打数」−「実際に打った打数」
私たちは平均すると1ラウンドで9回以上はほとんど外す事がないショートパットを打っている事が分かっていますが、このショートパットはほぼ100%に近い確率で入り、プロもアマもその確率に大きな違いはありません。タップインできるパットに一打以上の価値がないとなると、実際にスコアに影響するパット数は我々が思っている以上に限定的である事が分かってきます。
ちなみにPGAツアーでは選手のパフォーマンスを計る指標として以下を使っています。
SGP(STROKES GAINED of PUTTING)
パッティングで稼いだ数です。その距離からの平均打数−実際に打った打数で計算されています。
STROKES GAINED of TEE-TO-GREEN
ティーショットからグリーンに乗るまで(ショットで)に稼いだ数が分かります。
SG TOTAL-SGPで計算されています。
STROKES GAINED TOTAL
全体の平均スコアよりも、そのプレイヤーが平均してどのくらい上回るかが分かります。
全体平均−その選手のスコアで計算されています。
■アマチュアゴルファーのSGP
これまではプロのデータですが、アマチュアだとどうでしょうか?
スコア90でプレーするアマチュアゴルファーのパッティングが入る確率50%の距離は約1.5mというデータがあります。なので1.5mを1パットで入れると0.5打稼いだ事になり、逆に1.5mを外すと0.5打失った事になります。
また同じデータから一般的なアマチュアゴルファーの2パットの範囲は約6mです。ですから平均2パットの6mを1パットで入れた場合は差分の1.0打を稼いだことになります。
同じ計算で9mの距離を2パットで凌ぐと0.16打稼ぎ、18mの距離を2パットでいくと0.51打稼ぎます。逆に90センチのパットを外すと0.83打を失った事になります。
おそらく皆さまがプレーをしていて「今の1打は大きい!」と思う瞬間があると思います。例えばロングパットが入った場合、お先パットを外したりした場合です。
その1打の影響度を数値化しものがSG指標であるというのが分かってきますね。
■SG指標から分かる事
このように見ていくと、スコアカードに29パットと書かれていたとしても、それがアプローチの回数が多く3m以内のショートパット中心の29パットだった場合と、3m以上のパットが何回も入った29パットでは、そのラウンドでパッティングがスコアへ与えた影響は全く違う結果になります。
ですから「パット数が少ない=パターが上手い」ではないという事です。SG指標は自分は何が得意で、何が苦手かが分かる指標とも言えます。
さらに調べていくと面白い事が分かります。
例えばPGAツアーの平均的な優勝スコアは269.6ストロークで1日平均67.4です。全体の平均スコアは71.1ですから、優勝するプレイヤーは平均的なプレイヤーよりも1日あたり3.7打良いスコアでプレーしている事になります。
優勝者の平均SGP(パターで稼いだ打数)は1.3なので、1ラウンドで残りの2.4打はパッティング以外のストロークが平均を上回って優勝した事が分かります。この指標からパッティングのスコアへの貢献度は35%で、残りの65%はグリーン外のストロークがスコアに影響を与えているという事になります。
ゴルフはショットとパットが半分ずつでPARが設定されていますから、パッティングはスコアの半分を占めると思われていますが、こうして見るとパットの貢献度は私たちが考えているよりも小さい事が分かります。パットと同じ要領で、アプローチやティーショットの1打の価値を計ると更に面白い事が分かるかもしれませんよね?
第2回の記事ではSG指標をスコアアップに役立てる方法を書いていきます。